投稿日: 2020年8月30日2020年11月30日 投稿者: kamai宅地の防災学 京都大学出版会 2020年4月 https://www.kyoto-up.or.jp/books/9784814002528.html FacebookXCopy
日本経済新聞(2020/6/20朝刊)に以下の書評(「この1冊」)が掲載されました。 宅地の防災学 釜井俊孝著 「斜面」の近現代史辿る試み 国土の約7割を山地が占め、そこから流れ下る無数の河川が谷と扇状地を作る日本列島。その歴史には水害や地震による「崩れ」と人との抜き差しならない関係が埋め込まれている。私たちが目にする里山や都市の風景もまた、日本人と自然のそうしたせめぎ合いが反映されたものだ。 都市における「斜面」の近現代史を描く本書は、いまを生きる私たちにとって、その現実的な意味を理解させてくれる一冊だろう。日本では明治維新による地租改正以降、土地の私有のあり方が変わり、近代的な宅地の開発が始まった。そして、戦後はGHQによる占領政策、高度経済成長期からバブル崩壊に至る中で、これまで人が暮らしていなかった谷や台地、丘陵が埋め立てられ宅地化されていく。 では、そのように連綿となされてきた都市開発は、次世代へどのように土砂災害・宅地災害のリスクを引き渡していったのか――。関東大震災や戦後の都市型災害の端緒である長崎大水害、近年の広島の土砂災害に至るまで、著者は数々の具体的な事例を読み解き、多くの宅地災害と開発の関係史を浮かび上がらせていく。その上で繰り返し指摘されるのは、国民と不動産をつなぐ新しい価値観や運用の仕組みづくりの必要性だ。激化する豪雨災害や震災に備える意義深い論考だろう。 かつて物理学者の寺田寅彦は著名な随筆「天災と国防」において、〈文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその劇烈の度を増すという事実〉を人は常に忘れがちだと書いた。戦後経済史や政策・制度の変遷を広く俯瞰(ふかん)しつつ、とりわけディベロッパーの無計画な土地の改変と宅地災害の骨がらみの関係が次々と明かされるのを読みながら、私はこの言葉の重みをあらためて感じずにはいられなかった。 人が忘れても土地の方は自らに刻まれた来歴を決して忘れない。地すべりや崖崩れのリスクのある宅地とは、どのような場所なのか。そこはどんな歴史を辿(たど)ってきた土地なのか……。読後、試しに近所の市街地を歩いてみるだけでも、周囲の風景が少し違って見える。〈地学リテラシー〉という言葉が何度か登場するように、多くの読者にとって本書は、まさにその力を養うための実用的な教科書としても読めるはずだ。 《評》ノンフィクション作家 稲泉 連 返信
DPRI Newsletter 95号に、以下の新刊紹介が掲載されました。 日経新聞の書評子が読み解いた様に、本書は、「斜面の近現代史を辿る試み」です。前作『宅地崩壊』は事項中心でしたが、今回は、都市史の中に災害を位置づける手法を取りました。都市計画+宅地開発と土砂災害の「骨がらみの関係」について、辛口な記述が、ほぼ年代順に続きます。学術選書の特典として、多くの脚注もついています。つまり、けっして読みやすいとは言えない本書ですが、経済人の読者も多く得られました。望外の喜びです。 返信
日本経済新聞(2020/6/20朝刊)に以下の書評(「この1冊」)が掲載されました。
宅地の防災学 釜井俊孝著 「斜面」の近現代史辿る試み
国土の約7割を山地が占め、そこから流れ下る無数の河川が谷と扇状地を作る日本列島。その歴史には水害や地震による「崩れ」と人との抜き差しならない関係が埋め込まれている。私たちが目にする里山や都市の風景もまた、日本人と自然のそうしたせめぎ合いが反映されたものだ。
都市における「斜面」の近現代史を描く本書は、いまを生きる私たちにとって、その現実的な意味を理解させてくれる一冊だろう。日本では明治維新による地租改正以降、土地の私有のあり方が変わり、近代的な宅地の開発が始まった。そして、戦後はGHQによる占領政策、高度経済成長期からバブル崩壊に至る中で、これまで人が暮らしていなかった谷や台地、丘陵が埋め立てられ宅地化されていく。
では、そのように連綿となされてきた都市開発は、次世代へどのように土砂災害・宅地災害のリスクを引き渡していったのか――。関東大震災や戦後の都市型災害の端緒である長崎大水害、近年の広島の土砂災害に至るまで、著者は数々の具体的な事例を読み解き、多くの宅地災害と開発の関係史を浮かび上がらせていく。その上で繰り返し指摘されるのは、国民と不動産をつなぐ新しい価値観や運用の仕組みづくりの必要性だ。激化する豪雨災害や震災に備える意義深い論考だろう。
かつて物理学者の寺田寅彦は著名な随筆「天災と国防」において、〈文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその劇烈の度を増すという事実〉を人は常に忘れがちだと書いた。戦後経済史や政策・制度の変遷を広く俯瞰(ふかん)しつつ、とりわけディベロッパーの無計画な土地の改変と宅地災害の骨がらみの関係が次々と明かされるのを読みながら、私はこの言葉の重みをあらためて感じずにはいられなかった。
人が忘れても土地の方は自らに刻まれた来歴を決して忘れない。地すべりや崖崩れのリスクのある宅地とは、どのような場所なのか。そこはどんな歴史を辿(たど)ってきた土地なのか……。読後、試しに近所の市街地を歩いてみるだけでも、周囲の風景が少し違って見える。〈地学リテラシー〉という言葉が何度か登場するように、多くの読者にとって本書は、まさにその力を養うための実用的な教科書としても読めるはずだ。
《評》ノンフィクション作家 稲泉 連
Wedge2020年10月号に書評(新刊クリップ)が掲載されました。
https://wedge.ismedia.jp/ud/wedge/release/20200920
DPRI Newsletter 95号に、以下の新刊紹介が掲載されました。
日経新聞の書評子が読み解いた様に、本書は、「斜面の近現代史を辿る試み」です。前作『宅地崩壊』は事項中心でしたが、今回は、都市史の中に災害を位置づける手法を取りました。都市計画+宅地開発と土砂災害の「骨がらみの関係」について、辛口な記述が、ほぼ年代順に続きます。学術選書の特典として、多くの脚注もついています。つまり、けっして読みやすいとは言えない本書ですが、経済人の読者も多く得られました。望外の喜びです。