「宅地の未災学」への招待

災害は、人間の弱さ、愚かさを的確に突いてくるものです。だから、災害を減らすには、そうした人間の弱点に関する学問が必要です。しかし、普通の人間(筆者も含めて)は、そのままでは自分の愚かさに気づきません。災害調査は、そうした自分たちの失敗に気づいてそれを記録し、後世に残すという意義もあります。本サイトでは、多くの災害調査の中から、各時代の特徴を物語る代表的な事例を集め、ほぼ年代順に都市の斜面災害と日本人の関係を見てきました。宅地の有り様には、その時代の社会経済状況が鏡の様に写りこんでいます。それゆえ、本書の隠れた主題は、都市の地すべりから見たわが国の現代史という事なのです。

現代史を語るということは、自分の立ち位置を明確にすることにほかなりません。その点、本サイトの主張を要約すれば、「都市を営み、生きてゆくために、われわれは自然を破壊し、環境を汚染する。このことは、人間の業の様なもので、避けがたい。しかし、それにも限度というものがあり、現在の状況は自ら災害を招いており、やりすぎた状態である。要はバランスが大事であるが、そのための方策を皆で考えようではないか」ということになります。

一方で、本サイトのもう一つの主題は、地学的教養の重要さという事です。宅地は確かに住宅の基礎地盤で大事であるとされてきました。しかし、その大事とする意図は、「とりあえず近い将来に問題が生じない程度に大事」ということであったかと思います。そのことは、過去の災害が物語っています。「とりあえず」という視点は、利を追求する仕組みの中では合理的な判断ですが、同時に長期的・総合的に考える地学的視点が無ければ、間違った判断を下すことになるかも知れません。それを知ったうえで、全ての国民に地学への関心を高めていただきたいと思います。そのことが、宅地崩壊に「とりあえず」対処する術の一つに違いない、と思うからです。

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