目的・意義
最近の都市型土砂災害では、危険性が高いにも関わらず、住民が避難せずに災害に遭うケースが増えている。災害の広域化、激甚化が予想される今後のわが国で、そうした事態を防ぐには、「現状は未災に過ぎない」という認識を社会全体で共有し、対策を急ぐ必要がある。そのために、最も効果的なのは、災害のリスクを個人の財布に直結させることである。そこで、固定資産税など、住民に身近な資産評価(税)と災害のリスク情報を関連付けることで、社会全体で未災の意識を高める方策を探る。税制と災害対応は、これまで全く別な体系で発展してきた。しかし、住民を実際に動かすには、例えば、災害リスク税の創設によって資産価値を大幅に増減させるといった、ドラスティックな施策が必要であり、ここでは、そのためのパイロット的提案を実証データに基づいて行う。すなわち、本研究は、宅地に関わる税制を切り口に、未災学という新しい学問領域の構築を図ろうとする「挑戦的な」試みである。さらに、研究の過程では、地価(資産評価)から見た平成の大災害史も見えてくると期待される。こうした視点は、これまでになかった独自なもので、災害史学の分野としても興味深いと言える。
方法
災害の種類と地域的普遍性を考慮し、1995年兵庫県南部地震、2004年中越地震、2011年東北地方太平洋沖地震、2014年広島豪雨災害、2016年熊本地震、2018年西日本豪雨災害、2018年胆振東部地震で被災した地域と被災しなかった地域を研究対象とする。
固定資産税の路線価は、各自治体が毎年改定し、公表されている。そこで、調査対象地域(被災地域と未災地域)の固定資産税に関するデータを収集し、図化し、分析する。年ごとの推移を見るためには、災害を挟んだ数年程度のデータが必要である。国税庁や資産評価システム研究センターでは、過去数年分の路線価情報を提供している。しかし、これら以前の災害に関しては、被災地を抱える各自治体に問い合わせるか国会図書館の資料を調査する必要がある。
次に、収集したデータをもとに、災害の現象が、地域にどの様に影響し、受容されていったのかを、被災分布と固定資産税分布の重ね合わせによって明らかにする。この「宅地災害受容マップ」では、災害を挟む数年間の固定資産税の変化を4次元的に見ることができる。一方、宅地災害受容マップは、災害に対する自然治癒の過程を不動産取引の視点から示している。一方、社会として、災害の痛みをどう克服し、将来に生かす(肝心なことは忘れない)かは、住民も含めて、議論すべき課題である。そこで、自治会へのヒアリング、住民アンケート等を実施し、被災前と被災後で、土地資産に関する意識の変化を探る。この結果と、宅地災害受容マップを総合化し、法曹関係者等と議論しつつ、土砂災害のリスクと資産評価システムをリンクさせる方策について検討する。