リスクと税金

行政がリスクを調査し、ハザードマップに示し、避難を呼びかけているのに、なぜ人々は動かないのかというと、住民は行政が本気だと思っていないからです。多分、それは住民の誤解だと信じたいのですが、行政が自ら本気度を疑わせるような行動をとっている事も事実です。その一つが、土地の税金、いわゆる固定資産税の徴収方法です。固定資産税は、基本的に土地の価値(固定資産税評価額)に税率(たいていは1.4%)をかけて決められる仕組みです。実際の徴収額は、様々な軽減措置があって複雑ですが、基本は固定資産税評価額という点は変わりません。

その固定資産税評価額は、自治体が決めています。その判断の根拠は、直近の土地の取引価格がいくらだったかという事です。しかし、全ての場所のデータは無いので、「色々考えて」決めるという事になります。実際の作業は、自治体から委託された不動産鑑定士さんたちが行うようですが、道路ごとに決めていくので、固定資産税路線価と言います。路線価と言えば、銀座・鳩居堂前が有名ですが、それは相続税の路線価の方で、国税庁が決めています。

それでは、この固定資産税路線価に土砂災害のリスクはどの程度反映されているでしょうか? 実は、災害前にはほとんど反映されていません。ただし、土砂災害警戒区域で約10%、特別警戒区域で約30%の減価(マイナスの評価)が行わることが普通です。その意味では、リスクを一応評価しているように見えますが、もう少し広く見ると、同じ団地の安全な地域が、少し道路事情の悪い所という理由で、10%以上安く評価されていたりします。また、安全な高台の宅地の固定資産税が、全域が土砂災害警戒区域に入っている団地の約半分という例もあります。道路事情は変わらないので、造成年代や人気が影響したのだと思います。しかし、2018年7月の豪雨災害では、固定資産税の高い方の団地が土石流で被害を受けたのに対し、評価の安い方では災害が起きませんでした。つまり、税金の評価の面では、命よりも利便性や人気が優先されているのです。

同じことは、都市域の谷埋め盛土についても言えます。谷埋め盛土は土砂災害警戒区域ですらないので、減価は通常行われません。なので、固定資産税は、駅近とか道路幅といった利便性や人気といった災害に関係ない要素のみで判断されています。しかし、実際には、場所によって地すべりのリスクに相当の違いがあることは、既に述べたとおりです。

そもそも、固定資産税を10%負けてもらっていても、死んでしまったり、住宅が壊れては元も子もありません。個人にとって災害は、不動産鑑定にまつわる様々な思惑を全て押し流してしまうものなのです。固定資産税は、行政から住民に対する重要なメッセージです。それに反映される災害リスク分がこの程度では、住民が行政の本気度を疑うのも無理は無いのではないでしょうか。もっと、固定資産税に差をつける様にして、地価が災害リスクによって変動するようになれば、住民も本気でハザードマップを見る様になると思います。未災の意識改革は、財布に直結する事から始めるのが効果的かも知れません。