最近の不動産業界では、明治以来の実需に応じた商売の再評価、環境や歴史などを付加価値とする開発企画力の重視、不動産証券化などの新たなビジネスモデルの構築などが叫ばれています。つまり、全体としてみると、不動産業は、歴史的転換点に立たされていることは間違いないところでしょう。しかし、これらの「不動産新時代」の動きは、売る側の視点から見た改革が多いのが気になります。そこには、不動産業を真に持続可能なビジネスにするための重要な視点が欠けている様に思われるからです。その重要な視点とは、不動産情報の透明化です。
一般の消費者が不動産を購入する時、不動産屋さんから重要事項の説明を受けます。数回にわたる不動産業法の改正によって、開示される情報も増えてきました。しかし、「宅地の地質情報」という肝心の部分は、依然としてファジーのまま取引が行われことが多いのが実態です。驚くことに、売主の不動産屋さん(販売業、仲介業)も、宅地の地下がどうなっているのか、正確には知らないことが多いのです。その理由は簡単で、売主は何かを知れば、それを買主に説明しなければならないからです。例えば、判例では、知らなかったことでは無く、言わなかったことが瑕疵とされています。つまり、知らないうちに売って(仲介して)しまえば、責任はそこで終わるので、売主にとっては深く知らないのが一番のリスクヘッジというわけです。
それでは、デベロッパーはどうでしょうか。彼らのところには地下の情報が蓄積されているはずです。しかし、彼らは、谷埋め盛土の有無やその硬さ、排水計画などの際どい情報の開示には、消極的なことが多いようです。なぜなら、最終消費者が事前にそうした情報を知れば、谷埋め盛土の上の宅地は売れ残ってしまうと予想されるからです。つまり、デベロッパーのビジネスモデルは、そもそも消費者との間の情報格差を前提として成り立っているのです。ゆえに、「商品を販売する可能性のある人に相談しても、まともな答えは返ってこない」というのは、不動産取引の世界の常識なのです。このことは、最終消費者に著しい不利益をもたらしてきました。例えば、地盤災害のリスクを知らないまま土地を購入し、最終消費者が被害にあった例は枚挙にいとまがないと思います。しかし、そうした場合でも、ほとんどの消費者は泣き寝入りするか、国や自治体が税金で尻ぬぐいをしてきたのが実態です。つまり、デベロッパーは「逃げ得」を繰り返してきたと言えると思います。
「デベロッパー」という名称は、1960年代初頭、「不動産屋」にまとわりついていた負のイメージを払しょくするため、彼らが自分たちをそう呼んだのが始まりです(私は逆の意見ですが)。しかし、そもそも、商品に関する情報をとことん説明すると差し障りが生じる業界は、果たして健全と言えるでしょうか。情報が開示されないままでの宅地取引は、単なるリスク付け回しにも思えてしまいます。かつて、彼らが目指したように、デベロッパーが真に尊敬される職業になるためには、売る側もある程度リスクを取る必要があると思います。不利な情報でも開示する不動産屋さんが、報われる状況が望ましいのです。真に持続可能な不動産業となるためには、情報の透明性確保こそが、業界全体で取り組まなくてはならない課題であると思います。